お墓が主役のテレビ番組があるってご存知ですか?
テレビ大阪で2020年より不定期で放送している「お墓から見たニッポン」という情報バラエティ番組です。
今回はこのシリーズ番組の魅力に迫ってみたいと思います。
「お墓から見たニッポン」
どんな番組?
「お墓から見たニッポン」はテレビ大阪製作の当初単発番組でした。2020年3月に、金曜夕方の30分枠で、全3回のスペシャル番組としてスタートしています。
どんな番組かというと‥‥
お墓を知れば“ニッポンの姿”が見えてくる!
歴史の偉人たちのお墓を訪ね、その人物のエピソードからお墓の在り方を学び、 また、それと同時に、知られざる庶民のお墓の歴史にも焦点を当て、改めて日本を見つめ直す番組。
ローカル局の単発企画番組だったのですが、その後「Season 3」までシリーズ化され、この夏に「Season 4」が放送されることになっています。続いているということは、人気あるということですね!
出演者・スタッフ
ご出演はこちらの4名。
TKOの木本武宏さんは、お墓素人だけど歴史やお墓に興味はある、というもっとも視聴者に近いスタンス。若手代表の坂本七奈アナウンサーとともに、ユーモアたっぷりに進行していきます。
専門家枠には、墓マイラーのカジポン・マルコ・残月さん、と、千葉商科大学でお墓研究をされている朽木量教授を配して、バラエティとしても、知的教養番組としてもバランスのとれたキャスティングです。
ちなみに、墓マイラーとは、歴史上の偉人の墓を巡り故人に想いを馳せる人のこと。カジポンさんは33年間で101カ国を訪ね、国内外で2,520墓ものお墓参りをしている筋金入りの墓マイラーさんです。お墓といえば外せない重要人物として、わたしも以前より注目し、ご著書やサイトなどを拝見しては感動しております。
朽木先生は、考古学や民俗学の観点からお墓を研究して、30年間で国内外2万墓以上のお墓を調べたというスペシャリストで、今回は番組監修としてのお立場も。見たところ関西人とお見受けしまして、ノリや木本さんとの相性も良いのです。
このメンバーが、回を重ねるごとにチームワークを発揮していくのも密かな見どころだったりします。
テレビ大阪製作で、ロケ地は関西中心、オンエアも基本的にテレビ大阪のみですが、なんと、これまでの全編がYouTubeにアーカイブされています。ですから日本全国、全世界から見られる番組なのです。
そんな「お墓から見たニッポン」をシーズンごとに見ていきましょう。
Season 1(2020年3月)
歴史上の偉人のお墓から「知られざるニッポン」の姿を見出そうというのが、この番組のコンセプト。全3回を、平安時代、戦国時代、幕末維新という人気の時代に分けて、偉人の墓と庶民の墓という形で辿っていくものでした。
スタートはコロナ禍直前で、冬のロケが楽しそうに映っています。
#1「平安時代のお墓」
平安時代~「なぜ敵味方の武士が同じ寺に眠る?」平敦盛と熊谷直実
平安時代末期、源平の合戦で戦った平家側の平敦盛(1169-1184)と、源氏側の熊谷直実(1141-1208)のお墓を訪ねます。
二人の墓は、京都市左京区の金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)に一緒にあるというのです。なぜ、敵味方のお墓が同じお寺にあるのか、この二人の物語を紹介してくれます。
境内にある紫雲墓地は、山全部が墓地のようなところで、歴史上の多くの有名人たちが眠っているそうです。江や、春日局のお墓も見ることができますよ。
平敦盛は、平清盛の甥でまだ少年でしたが、一ノ谷の戦い(1184)で、源氏側の熊谷直実によって命を絶たれてしまいます。そのときのエピソードがドラマで再現されるので、歴史を知らなくてもとても分かりやすいのです。
少年の命を奪ってしまったことを悔いた熊谷直実は、その後浄土宗の開祖、法然上人のもとに出家したといいます。そのお寺がここ、金戒光明寺ということだそう。
正確にはこの二つは供養塔で、中世(鎌倉時代頃)に建てられたのではないかと、朽木先生のご説明がありました。故人縁の地に供養塔を建てるという行為自体が、仏教に貢献し、功徳が得られ、往生できるという考えがあるそうです。後世の人々が、直実と敦盛を手厚く供養したという訳ですね。
この回では、平安時代の庶民がどのように葬られていたかの説明もありました。基本的には風葬といって遺体は野ざらしになることが普通だったそうで、庶民に墓石という概念はなかったということです。
#2「戦国時代のお墓」
戦国時代~ 「天下獲りの秘密はお墓にあり?」信長と秀吉
さすが関西は歴史に強い!ということで、織田信長(1534-1582)と豊臣秀吉(1537-1598)というビッグネームのお墓が見られる回です。二人の功績は有名過ぎますので省きます。
豊臣秀吉の墓
秀吉の墓は、京都市東山区の阿弥陀ヶ峰(あみだがみね)の山頂にあり、563段のながーい石段を上っていきます。
なぜ秀吉の墓が京都にあるのか? ここが京都の豊臣家に関わるものが多くある縁ある地だそうで、本人の遺言だったそう。
当初は山の中腹に埋められたものの、徳川家康の時代に荒れ放題となりますが、明治30年(秀吉の300年忌)に山頂に再建されます。れた立派なお墓を見ることができます。ということは、遺骨はここにあるということになります。
墓は立派な五輪塔で10メートルほどもある大きさで、築地本願寺を設計した建築家・伊東忠太がデザインしたそうです。
織田信長の墓
本能寺の変(1582年6月)で自害した織田信長。その死後、明智光秀は遺骸を見つけることができなかったと言われていますが、その謎を解くのが今回のお墓です。
信長の墓は京都市左京区にある阿弥陀寺にあります。この寺を創建した清玉上人が秘密裏に運び出した説がそれで、織田家と親交が深く信長と家族同然だったという清玉上人により、持ち込まれたとされているそうです。
境内の墓地に、織田信長公の墓が、長男・織田信忠の墓と並んで建っています。周辺には、森蘭丸など家来たちのお墓もあります。
意外にも小ぶりであり、周辺には一石五輪塔が多いという戦国時代のお墓の特徴からも、同時代性があるものだとのこと。とてもリアリティを感じられるお墓です。
戦国時代の庶民のお墓は、墓地の中心に大きな五輪塔を建てて共同でつかったり、地侍や国人層などは小さな一石五輪塔を埋葬地の近くに置く場合もあったということです。
#3「幕末維新のお墓」
幕末維新~ 「坂本龍馬の墓の謎」
坂本龍馬(1836-1867)の墓は、京都市東山区の京都霊山護国神社(きょうとりょうぜんごこくじんじゃ)にあります。
土佐藩(高知)出身の龍馬の墓がなぜ京都にあるのか。ここは明治天皇の勅命により1868年、明治維新に向かうなかで命を落とした幕末の志士たちを奉祀するために建立された、招魂社(国家のために殉難した死者を奉祀した神社)なのだそう。
1000名を超える志士たちが藩ごとに祀られているなか、山を登っていった先に、坂本龍馬の墓が、盟友で一緒に暗殺された中岡慎太郎(1838-1867)の墓と、同じ形で並んでいました。
墓石の形は、先が尖った神道型。名前を揮毫したのは、長州藩の木戸孝允(桂小五郎)と言われているそうです。
そして、二人のお墓のすぐ横には用心棒だった山田藤吉の墓もあるのが、なんだか泣けます。
この回では、江戸時代の庶民の墓の解説もありました。初期は一つの墓に一人だったのが、中期には夫婦や兄弟などの二人墓ができ、後期になると家族・親族を埋葬するようになって、明治以降の先祖代々の墓へと変遷していったそうです。
このように、考古学的にいうと、お墓の形やあり方は50年〜150年スパンで変化していくと考えられるそうです。
Season 1 まとめデータ
「お墓から見たニッポン」Season 1
オンエア日 | タイトル・YouTube | 主なお墓 | |
---|---|---|---|
#1 | 2020/03/06 | 平安時代~ 「なぜ敵味方の武士が同じ寺に眠る?」平敦盛と熊谷直実 | 平敦盛、熊谷直実 |
#2 | 2020/03/13 | 戦国時代~ 「天下獲りの秘密はお墓にあり?」信長と秀吉 | 豊臣秀吉、織田信忠、織田信長 |
#3 | 2020/03/20 | 幕末維新~ 「坂本龍馬の墓の謎」 | 坂本龍馬、中岡慎太郎、山田藤吉 |
Season 2(2020年8月)
前回放送から5ヶ月、シリーズ第2弾として「お墓から見たニッポン Season2」がめでたく放送されました。
夏のお盆シーズンにあたる8月7日(金)夕方5時22分~、8月10日(月・祝)ひる12時27分~、8月14日(金)夕方5時22分~の各30分枠で全3回とフォーマットのままです。
今回は「非業の死を遂げた悲劇の男たち」というテーマが掲げられ、楠木正成、明智光秀、大塩平八郎という超有明偉人のお墓に迫るシリーズとなりました。
ユニホームができた!
ソーシャルディスタンスになった!
出演者も小芝居をするように!
といったところが前シーズンとの違いですが、基本コンセプトはしっかりと踏襲しています。
#1 南北朝時代 「河内のアウトロー 楠木正成」
シーズン2以降は、長くなるのでポイントを箇条書きにて。本当にどれも面白いので本編を見ていただきたい!
- 訪ねた場所:湊川神社(神戸市中央区)
- 訪ねたお墓:楠木正成(1294-1336)の墓
- お墓の特徴:もとは中国の貴族階級の墓の形である、亀趺墓(きふぼ)
- 誰がいつ建てたか:江戸時代、水戸光圀公(徳川光圀)により
- 鎌倉時代の庶民のお墓参り:中ノ川墓地(奈良市)
- 特徴:中世の雰囲気をのこす。五輪塔のまわりを囲うように木製の墓標が立つ。
\シーズン2から、お墓で寸劇を撮影しているところが、楽しい!/
#2 戦国時代 「なにを望んでいたのか 明智光秀」
- お墓の場所:西教寺(滋賀県大津市)
‥‥琵琶湖近く、明智光秀一族の菩提寺、669年聖徳太子が建立したといわれる - 訪ねたお墓:明智光秀一族の墓
- お墓の特徴:自然石で大きい供養等。隣には妻・明智熙子の墓がある。
- 誰がいつ建てたか:明智光秀が坂本城主としてこの地と西教寺を再建したため、後の人が建てた。
- 戦国時代の庶民のお墓参り:中山念仏寺墓地(奈良県天理市)
- 特徴:五輪塔の周辺に、小さな石塔が置かれるようになっている。背光五輪を浮き彫りにした石碑(カナンボ石)、一石五輪塔など、個人が小さな墓を建てるように。
#3 江戸幕末 腐敗した幕府を「世直し」大塩平八郎
- お墓の場所:成正寺(大阪市北区)‥‥日蓮宗菩提寺
- 訪ねたお墓:大塩平八郎(1793-1837)の墓、大塩の乱に殉した人々の碑
- お墓の特徴:空襲で破損したため昭和32年に復元された、新しいお墓。江戸時代風の櫛形墓標。
- 江戸時代の庶民のお墓参り:土葬の墓地(奈良県宇陀市)
- 特徴:埋め墓と参り墓がある、両墓制の埋め墓は、2000年まで土葬で使用されていた。
Season 2 まとめデータ
「お墓から見たニッポン」Sseason 2
オンエア日 | タイトル・YouTube | 主なお墓 | |
---|---|---|---|
#1 | 2020/08/07 | 南北朝時代 「河内のアウトロー 楠木正成」 | 楠木正成 |
#2 | 2020/08/10 | 戦国時代 「なにを望んでいたのか 明智光秀」 | 明智光秀、明智熙子 |
#3 | 2020/08/14 | 江戸幕末 腐敗した幕府を「世直し」 大塩平八郎 | 大塩平八郎 |
Season 3(2021年1月)
また半年を置かずの2021年1月、シリーズ第3弾が作られました。
テーマを「決断!一撃に賭けた男たち」と据え、シーズン1同様、平安、戦国、江戸時代のそれぞれの偉人にスポットをあて、時代とお墓を紐解いていきます。
コロナ禍にあっても変わらず制作できているのは、お墓が密とは無縁だからかもしれませんね。
本シーズンでも偉人だけではなく庶民のお墓に、風習や文化、死生観など民俗学的な視点で、スポットがあてられます。
#1 平安末期 「源義経~判官贔屓」 ムラを見守る先祖の墓
- お墓の場所:静の里公園(兵庫県淡路市)
- 訪ねたお墓:源義経(1793-1837)の墓、静御前の墓と並ぶ。
- お墓の特徴:墓石の形が宝篋印塔。亡くなって100年以上経てつくられた南北朝時代のもの。義経公の墓は各地にがあるが、江戸時代から有名だったと伝わる。
- 庶民のお墓:大原神社(京都府福知山市)近くの集落に、大原の産屋が現存する。離れたところのヤマにある墓地へ。
- 特徴:産屋や墓地の位置関係が、日本人の死生観を表している。ムラはご先祖様(墓地)と氏神様(神社)に護られている配置。
#2 戦国時代 「真田信繁~日本一の兵」 村の長老は死してなお尊敬される
- お墓の場所:善名称院(真田庵)(和歌山県九度山町)
- 訪ねたお墓:真田信繁(幸村)の墓、真田昌幸の墓
- お墓の特徴:江戸時代中期以降に建てられたお墓。それぞれに宝篋印塔(ほうきょういんとう)が建っている。
- 庶民のお墓:年齢階梯制墓地の「水間のミハカ」(奈良市水間町)。
- 特徴:埋め墓と参り墓が別にある両墓性の墓地で、山の斜面を利用した段段により、年齢と性別で埋められる場所が分けられている。年長者を敬う風習が見られる。
#3 江戸時代 「赤穂浪士~武士の本懐」 縁もゆかりもない先人の教訓を得る墓巡り
- お墓の場所:万松山 吉祥寺(大阪市天王寺区)
‥‥赤穂浪士47人の石像が並ぶ。 - 訪ねたお墓:浅野内匠頭、大石内蔵助、大石主税(内蔵助の長男)
- お墓の特徴:浅野内匠頭の墓は五輪塔、両サイドの内蔵助・主税の墓は、小ぶりな笠塔婆が使われている。主君と家臣の関係性が保たれている。
- 庶民のお墓:蒲生墓地(大阪市城東区)
- 特徴:江戸時代からのこる庶民の墓地で当時の墓石も多くのこっている。「大阪七墓巡り」という、無縁墓を供養する風習があった。大事な教訓を墓石に刻んだ「教訓墓」についても。
Season 3 まとめデータ
「お墓から見たニッポン」Season 3
オンエア日 | タイトル・YouTube | 主に訪ねる偉人のお墓 | |
---|---|---|---|
#1 | 2021/01/08 | 平安末期 「源義経~判官贔屓」 ムラを見守る先祖の墓 | 源義経、静御前 |
#2 | 2021/01/15 | 戦国時代 「真田信繁~日本一の兵」 村の長老は死してなお尊敬される | 真田昌幸、真田信繁(幸村) |
#3 | 2021/01/22 | 江戸時代 「赤穂浪士~武士の本懐」 縁もゆかりもない先人の教訓を得る墓巡り | 浅野内匠頭、大石内蔵助、大石主税 |
Season 4(2021年8月)
そしてついに、今年の夏に、Season4の放送が決定しました。パチパチ……!
昨年に続いてお盆をはさんだ、8月9日、13日、20日の全3回です。もう恒例になりそうですね。
「お墓から見たニッポン」Season4
話数 | オンエア日 | 訪ねるお墓? |
---|---|---|
#1 | 2021/08/09 | お市の方 |
#2 | 2021/08/13 | 細川ガラシャ |
#3 | 2021/08/20 | 淀 殿 |
関西圏以外の方はテレビ地上波では見ることができないのですが、放送後にはYouTube配信があるそうです。鑑賞したら、改めてレポートを追加したいと思います。
\シーズン4の記事をアップしました/
墓マイラー・カジポンの墓イイ話
Season 4を前に、カジポンさんのスピンオフYouTube番組が配信されています。火曜・金曜に新しい動画がアップされるそうです。(2021/8/27 #10で最終回となりました。)
墓マイラー・カジポンの墓イイ話
まとめ
お墓は日本人にとって生活の一部であること、
お墓参りとは先祖や亡き大切な人たちへの感謝であること、
知られざるお墓の歴史や文化を知ると日本の心が再発見できること。
毎回語られる冒頭のメッセージは、この番組のテーマであり、まさにお墓そのものだと思いました。
「お墓」をテーマにしたちょっと珍しいテレビ番組が、とても丁寧に作られていて、面白くて学びになって嬉しい!というのも率直な感想です。テレビ番組はやはり手間暇予算がかけられているので、見ごたえがあるし、簡単には行けない場所をリアルに映してくれています。映像は強いです。
偉人のお墓を通じて、また庶民のお墓の変遷を通じて、こんなに学びや発見があるなんて……正直簡単には伝わらないと思いますので、まずは興味のありそうな回からぜひ見てみてください。
番組ファンとしてはシリーズが長く続いてくれるように。
そして、いずれは関西を飛び出し、全国を行脚するほどのシリーズになってくれることを願って。
\2022年1月にシーズン5の放送も決定しました/
\さらに!シーズン5の記事をアップしました/