みなさんがお参りするお墓には、名刺受けはありますか? 春のお墓参りツアーで気が付いたことの一つが、区画内に設置された名刺受けでした。なんのためにあるの? 誰が入れて誰が回収するの? ほんとに使ってたの? と気になってしまいます。
明確な答えは見つかっていませんが、わたしなりの考えをメモ代わりに記しておきます。
お墓に名刺受けって一般的なのかしら?
多磨霊園のお墓に「名刺受け」発見
多磨霊園のお墓参りで久しぶりのお墓を観察してみると、区画内に何やら石の柱がぽつんとありました。
写真を拡大したもので見えづらいのですが、正面に「御名刺受」と書かれています。墓石は角形ですが、こちらは屋根のような装飾がついています。墓石に向かって右側に、控えめに佇んでいたのが「名刺受け」だと分かりました。
さて、ここに名刺を入れる? ……背後にまわってみます。
何も入っていません。それどころか、蓋がないし、滑り台構造になっているので、勢いよく投入したらそのまま滑り落ちてしまうのではないかと思われます。わたしがもし入れるなら、裏からそっと置きます。いやいや、野ざらしになるし、個人情報だし、絶対置きません。
では個人情報に無頓着だった頃だとして、お墓参りに来てくださった方が、その記しとして名刺を入れるとして……誰が回収するのでしょうか?
墓守である親戚の家はここからは非常に遠いため、入れた名刺は長いこと放置されてしまうと想定できます。
……誰が入れるのでしょうか?
そもそも名刺文化がいつ頃から日本に定着したのか、詳しくは分かりませんが、このお墓が建てられた昭和10年だと早すぎるような気がします。
また名刺受けの石質をよく見てみると、墓石と明らかに違う混色の荒目の石でちょっと浮いていたこともあり、あとから建てられた可能性が高そうです。(機会があったら親戚に尋ねてみたい)
ならば、お墓には名刺受けが建っていることが望ましいとされていた時代が、あったのではないかと思うのです。
小平霊園のお墓にもあった
小平霊園のお墓の写真を見返してみたら、こちらにもありました。
小さな門柱の右側に、ポスト式の名刺受けが。かなりボロボロですし、そもそも気づきにくい場所ですね。
裏側がどうなっているのかチェックできていなかったことが悔やまれますが、おそらく前例に近いのではないでしょうか。次回見てきます。
ここに眠る曾祖父は昭和29年に亡くなっていますが、建墓は昭和39(1964)年と、10年間はお墓がなかったはず。10年後にやっと建てられた墓を、友人知人にお知らせしたとして果たして、どれだけ訪ねてくれるものでしょう?
そう考えると、当時はお墓の設計にあたって名刺入れがデフォルトで付いていたのでは? と想像できます。
この頃、名刺を持っている人といえば会社勤めか公務員、自営で商売するような男性が主だったのではないでしょうか。要は現役世代を対象に、お墓参りをしてくださる人を把握するたのツール、それが名刺受け設置の狙いなのだと説明されているはずです。
縁石と一体となっていて、特に拒否する理由がなければ、付けちゃいます……かね。
お墓と名刺受けの関係は?
いまの世のなか無人の墓地の名刺受けに名刺を入れるなんて人はほぼいないでしょう。でも当時だって、使われたでしょうか? 墓地の場所や、あの造りを見てしまうと……かなり疑問です。
と考えると、墓所の名刺入れは、そもそも機能性ではなくて、装飾的な意味合いで付いていたのだと思うのです。
お墓にあっては、装飾物はだいたい宗教的概念に紐づいて意味づけされるけれど、名刺受けだけは例外だったのではないでしょうか。本来の目的であるはずの名刺を頂くことの機能性が十分でないならば、お墓を訪ねて欲しいというメッセージとしての機能を含んでいたのではないか、それが形骸化して装飾的にデフォルト化した、という風に考えられます。
お墓と名刺受けについての情報をネット上で探したところ、この記事が記録として秀逸でした。
なんと2005年5月15日付けです。都立谷中霊園は歴史ある墓地ですし、タイプ別にさまざまな名刺受けの存在を確認できて、とても興味深いです。(なによりこの頃から現在と同じサイト上で面白企画をされていた「デイリーポータルZ」さんに畏れおののいています)
どこかで生まれたお墓の名刺受けが、ある時期に広がって多くのお墓に付いていた現象を確かめることができました。それぞれがアレンジしたり、個性をだしたりするのも、モノづくりが好きな日本人の特徴のようにも思います。
一時期流行って、いつの間にか消えていった文化の足跡を、ひっそりと残している名刺受けに、愛着が湧いてきませんか?
今でも名刺受けは希望すればきっと造り付けることはできるでしょうし、性能が高くしっかり機能してくれるものもあるに違いありません。家の近くに墓所があれば、回収もできるでしょう。有名人のお墓なら、ファンが墓参してお手紙などを入れることができたら、ありがたいですよね。
デジタル時代にこれでもかのアナログさが活かせないものでしょうか。
お墓の名刺受けの関係について、少し考えてみました。そのルーツについては、引き続き調査対象にしておきましょう。情報求む!