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【お墓とドキュメンタリー】お墓参りの人間模様が凝縮した『ドキュメント72時間』

ドキュメント72時間

お墓のことを聞く機会が増えて、得られる情報も豊富になってきました。そんな中で、NHKの番組『ドキュメンタリー72時間』で「樹木葬のことを知ったよ」と教えてもらいました。この番組に、お墓やお墓参りにまつわる場所が登場する回を見つけ、それぞれが深すぎる秀逸なドキュメンタリーだったので、ご紹介させてください。

みんなのお墓、お墓参りをのぞき見できちゃうかな?

こんな記事

『ドキュメンタリー72時間』とは

『ドキュメンタリー72時間』」は、ここと決めたスポットに72時間=3日間カメラを据え、そこに訪れる人への取材を通じてそれぞれの事情や人間模様を浮き彫りにしていく、NHKのドキュメンタリー番組です。

2005年に初めてパイロット版『72時間』「渋谷ハチ公前広場コインロッカー 」が放送され、翌年から2007年までがシリーズの第一期。2013年に復活した第二期シリーズが、現在まで続く人気番組となっています。

ドキュメント72時間 – NHK

この番組は取材する場所がすべてのはじまり。その場所で72時間カメラをまわすというのがお約束です。その日その場所を記録し、そこに偶然現れた人を映し、ときどきインタビューでやって来た理由を聞き出していきます。

日本全国のさまざまな場所・街かど・お店などで、出会った人に話を聞いていくスタイルが、思いも寄らない人間模様を映し出し、気がつくと彼らにとってそこがどんな場所なのかが見えてくる、そんな番組です。

24分程度の番組なので、記録は凝縮されて、なにが見えてくるかは捉え手次第でもあり、ディレクターの手腕の見せ所でもあります。

「樹木葬 桜の下のあなたへ」

この番組を教えてくれた先輩は、離れたご実家のお墓の道筋をしっかりと采配し終わっていて、お墓に関する意識も経験値もとても高い方。この番組を見て、樹木葬もいいな、とイメージできたそうなんです。

2019年5月24日放送の「樹木葬 桜の下のあなたへ」(語り:吹石一恵/ディレクター:岡元啓)です。

取材場所は東京郊外の桜の樹木葬がある大型霊園で、ちょうど桜が咲くころの3月30日から3日間の記録です。

訪れる人はここに眠る人の家族・親族たちなので、彼らから故人の話や経緯が語られることになります。

ある男性は奥様の7回忌を迎えても毎週お墓参りに来ていたり、ある女性は旦那さんのお参りに来てその場で缶ビールを飲んでいたり。親族が集まってやって来ることもあれば、一人想いを抱えていらっしゃる人もいて。

短い時間でも、この場だからこそ語られる故人のことがよく伝わってきて、ここに来るそれぞれの理由につながっていきます。お墓参りで「癒される」という人もいれば、気持ちを整理していくだけの人、自身が買ったお墓を見に来る人もいます。

印象的だったのは、なぜこのお墓を選んだのか、「故人が気に入って決めた」「ここに入ると決めている」と言う人たちの顔が、とても晴れやかだったことです。

樹木葬を選ぶ人には、生前の意思がはっきりとありそうでした。

樹木葬といっても、この霊園内でもさまざまなタイプがありますし、葬り方、祀り方もさまざまですから、一概にこれが樹木葬というわけではありません。ただ、合祀される永代供養タイプの樹木葬とはこういうものか、このようにお墓参りするのか、とイメージすることができます。ドキュメンタリーが結果的に、利用者の顔がこの上なく見える手段になっていました。

『ドキュメント72時間』では毎年年末にその年のランキングを投票で決めているのですが、「樹木葬」の回は2019年ランキングで第4位に入っていました。

「大仏を見上げる霊園で」

アーカイブをさかのぼると、2015年9月4日放送「大仏を見上げる霊園で」(語り:市川実日子/ディレクター:佐藤理幸)という、霊園の回がもうひとつありました。

取材場所は関東最大級の大型霊園、茨城県牛久市にある高さ120mの大仏様を見上げる、牛久浄苑です。

取材期間は8月13日の午前11時からの3日間。いわゆる郊外型の大規模霊園のお盆の風景はどんなものなのでしょう。

夫の墓をきれいに磨き上げる妻。父親の墓を参る寝巻き姿の兄と弟。ガンで息子に先立たれた母親。母のお墓の前に毎月集う三姉妹。深夜、父親の墓にワンカップを供える息子。七人兄弟とその家族は年に一度集まる父親のお墓に集まるそう。そこにはすべて、見えない故人も存在しているのです。

悲しみを背負ったままの人もいれば、賑やかな場を楽しむ人もいて、まるで人間模様の交差点のよう。そんな様子を大仏様が受け止めているように見えるから不思議です。

毎年8月15日には大仏さまの目の前で、供養の花火大会もあり、多くの人が集まっていたのは、大規模霊園ならではかもしれません。

いろんな人が入れ替わり立ち替わり現れるお墓は、ドキュメント72時間にまさにぴったりな舞台でした。こちらは2015年のランキングで第2位の実績も持っています。お墓もの、人気ですね。

「長崎 お盆はド派手に花火屋で」


2016年9月23日放送の「長崎 お盆はド派手に花火屋で」(語り:仲里依紗/ディレクター:村田潤)は、斜め上からの切り口でした。長崎の伝統行事である精霊流しとお盆の風習から、弔いや供養、お墓参りシーンも登場していたものです。

撮影開始は8月13日の午前11時、長崎市の老舗花火問屋・立岩商店が拠点です。なぜ花火屋さん? ですよね。

長崎では、お盆に亡くなった人を花火で弔い、爆竹を打ち鳴らすのが伝統だそうで、みなさん専門店にこぞってやってくる訳です。手持ち花火から巨大な打ち上げ花火まで700種類以上もあるという店内はごった返し、目を輝かせて選ぶ子どもたち、いや親の方が真剣に花火を物色しているんです。

驚いたのは、打ち上げ花火を数万円分も購入する人、爆竹を何百箱も買う人がたくさんいることでした。しかも、1日でぜんぶ使い果たすためにです。「今年亡くなった父親を盛大に送るため」に40万円分の爆竹を買った男性も……想像ができないですが、実録です。

夕暮れどき、お墓のあちらこちらの墓前で花火をはじめる親族たち。打ち上げ花火もどんどこ上がります。お墓は静かにしなきゃいけないなんて誰か決めたんだっけ? ってくらい厳粛な雰囲気はどこへやら、派手で騒々しいのは、「音で邪気を払う」中国の風習からきているそうです。

クライマックスは15日の夕方から、亡き人を浄土に送るとされる精霊流しの精霊船が通る公道で、爆竹が破裂しまくる場面です。まるでどこか異国のお祭りのようでした。でもここは日本。大量のゴミを掃除して翌日から日常に戻っていくまで、まさにお祭り騒ぎの72時間をきっちりカメラに収めていて新鮮でした。

長崎の故人の送り方には多くの人が驚いたのでしょう、年間ランキング1位のインパクトを残しているのも頷けます。こんど長崎を訪れるならお盆の時期を狙いたいと思いましたよ。

「恐山 死者たちの場所」

一方、本州北端の文化を伝えていたのは、2014年6月6日放送「恐山 死者たちの場所」(語り:戸田恵梨香/ディレクター:中島聡)。こちらもこれまで縁がなかった、知られざる地域文化でした。

「人は死んだら“お山”に行く―。」何百年も東北の人々の信仰を集めてきたという、青森県下北半島の恐山が舞台。

撮影は冬場閉鎖を経て開山したばかりの5月のゴールデンウィーク。

恐山は荒涼とした岩場が続き、死者に手向けるという風車が回り、山とも谷ともつかない不思議な風景を映し出していました。お地蔵さんや仏様が方々にいて、パワースポット感は画面を通しても伝わってきます。

ペット供養にくる人、イタコの口寄せを目指して来る人、霊場内の温泉に来る人、観光地として訪れる人、御朱印集めが目的の女子……さまざまな人が訪れますが、身近に亡くした人の供養に来る人が多いようです。そうした多くの人が足を運び続けることからも、なんらかの力が働いていそうなことは間違いなさそうです。

なかでも「お墓とは別にお互い供養し合える場所」と言っていた女性の言葉が印象的でした。死者が集まると考えれば寂しくないし、亡くした側にとっても癒される場所になるのかもしれません。

どうしても悲しい話を聞くことになってしまいがちですが、帰るときにはスッキリしている様子も見られたのはお墓参りとの共通点かもしれません。供養ということを強く考えた回でした。

まとめ

これまで行ったことのない場所、想像もしなかった場所のドキュメンタリーが、いかに多くのことを伝えるか、まとめて知る機会となりました。凝縮されたドキュメント映像の力、生きた人の姿や表情、声の説得力に、心動かされるのです。

お墓に関係する企画がこんなにあったことは意外だったのですが、お墓は人を映し出す鏡なのかもしれません。

実はわたしたち、自分が関わるお墓以外の墓地・霊園をみる機会はあまりないし、ましてやそれぞれの想いまで想像することは難しいです。文化の多様性、さまざまな事情や価値観……物珍しさもありましたが、視野も広がりました。

何事においても、わたしたちは知ってるつもり、目に見える範囲だけで考えてしまいがちです。まだまだ知らないことだらけ、こうした番組のありがたさを感じます。すっかり番組のファンになってしまいました。

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