2021年6月9日〜11日の3日間、東京ビッグサイトにて行われた「セレモニージャパン・エンディング産業展」を見学してきました。お墓にまつわる出展も多くあり、その中から気になった事業やサービスをレポートします。
業界関係者が集まる最大の展示会で、最新の動きをキャッチしたい!
エンディング産業展(ENDEX)とは
エンディング産業展(Life Ending Industry EXPO)は、葬儀・埋葬・供養・看取り・終活など、ライフエンディングに関する情報・設備・機器・サービスに関する、日本最大の専門展示会です。
第7回となる2021年は、6月9日〜11日の3日間にわたり、東京ビッグサイト青海展示棟にて行われました。ちなみに、初日を9日の「友引」に設定するあたりが、業界らしさを醸しています。
冠婚葬祭産業が一堂に集まる総合展である「セレモニージャパン2021」として、墓石・記念碑などの石材製品サービス専門展「第5回 石材・霊園産業展」も同時開催されました。
速報によると会期3日間の合計来場者数は12,634名。HP上では28,000人の関係者が集まるとされていましたので、コロナ禍での開催もあって集客には苦戦した形でしょうか。とはいえセミナーやイベントも盛況のようで、展示も賑わいを見せていました。
そんな会場内で、特に足を止めたブースがありましたので、何回かに分けてご紹介します。
人生最期の旅〜宇宙葬
まずは、「宇宙空間を周回したのちに、星になる」新しい供養のかたち「宇宙葬」から。
星になって輝き続ける? 宇宙葬ってなんだろう? と来場前から気になっていたのです。
ブースに掲げられている「人生のラストステージを宇宙へ」というコピーにはどのような意味があるのでしょう?
宇宙葬(SPACE BURIAL)とは?
SPACE NTK社の宇宙葬は、2021年12月に打ち上げ予定のロケットをつかうもので、完全なる宇宙空間で散骨までが完了するといいます。詳しい解説はHPをご覧ください。
SPACE NTK https://www.space-ntk.com/
ご遺骨を人工衛星に乗せ、ロケットで地球周回軌道上に打ち上げます。
憧れの宇宙空間で叶う、新たな葬儀のかたちです。
「宇宙葬」は、英語で「SPACE BURIAL」とされています。「BURIAL=埋葬」という意味では、遺骨・遺灰の葬り先であり弔い方、すなわちお墓の代わりでもあり、「葬」をとれば「葬儀=セレモニー」としての意味合いもあると思います。
いずれにしても、これまで縁のなかった葬送と宇宙が結びついた「宇宙葬」は興味深いですよね。それこそ『宇宙戦艦ヤマト』にあったような……(否、棺をそのまま放つものではありません!)。
海洋葬が海への散骨であるように、宇宙葬に「宇宙空間への散骨」をイメージされる方も多いかもしれません。ある意味そうなのですが、では、具体的にどのように行われるのでしょう?
募集段階のプロジェクトであり、初めての試みでもあります。HPや記事を読んでも、難しい……ので、いくつかの疑問点をそのままお尋ねしちゃいました。
なにがすごいの?
実業家イーロン・マスク氏率いる、スペースX社をご存知でしょうか。宇宙船の開発や宇宙輸送事業を手がけ、2020年6月1日にアメリカの民間企業として初めて、国際宇宙ステーションにドッキングを成功させています。先月帰還した宇宙飛行士・野口聡一さんが搭乗した「クルードラゴン(Crew Dragon)」もスペースX社のものでした。そのクルードラゴンを打ち上げたのが商業用ロケット「ファルコン9(Falcon 9)」です。
このスペースX社と直接契約を結んでいるのが、SPACE NTK社の宇宙葬なのです。
このプロジェクトを企画したのは、葬送業界で長年活躍してこられたSPACE NTK社代表の葛西智子さん。幼い頃の「人は死んだらどこへいくの?」「星になって地上の人たちを見守るんだよ」という何気ない会話から、「星になりたい」という想いで行動を起こし、その夢が現実になろうとしています。
凄いのは、スペースX社に直接交渉をしかけ、イーロン・マスクCEOが宇宙葬の理念に共感したこと。その結果、人一人分のご遺骨を打ち上げることが実現し、これが世界初のことになるのです。
2021年12月に打ち上げ予定の「ファルコン9」が、この新しい形の宇宙葬・第一弾となります。
宇宙散骨のしくみ
さて、ロケットで遺骨を打ち上げるといっても具体的にはどのようにするのでしょう?
ご遺骨をカプセルに納め、人工衛星に乗せて地球周回軌道上に打ち上げます。
まだピンときません。最新の宇宙輸送に詳しくないとなかなか理解できないので、もう少し詳しく聞いてみました。
ロケットに、どんな風にご遺骨が乗せられるの?
スペースX社との契約は、スモールサットライドシェア(Smallsat Rideshare)プログラムというもの。以下の写真のように、ロケットの運搬ボックス(ペイロード)に取り付けられる箱を一つ、SPACE NTK社が宇宙葬用として買い取っているのだそうです。遺骨の納められた箱を「MAGOKORO」と呼びます。
ファルコン9(ロケット)で打ち上げられると、この箱が宇宙空間で切り離され、地球の軌道上に人工衛星として放たれることになります。その後、地球のまわりを周回している間は、「MAGOKORO」が今どの地点にあるかをいつでも確認することができるそうです。
周回する期間は5〜6年、その後宇宙空間へと放出され、地球に引き寄せられて落ちていきます。大気圏に突入する際に燃えてなくなりますが、これが「流れ星になる」というイメージです。
これまであった宇宙葬(※バルーン葬)と違って、一定期間は必ず、地球と一定距離を保ちながら宇宙空間を周遊することが大きなポイントとなります。これが「星になる」ということですね。
- バルーン葬は、地球から打ち上げたバルーンが約3時間ほどで高度40kmから50kmの成層圏に入ると燃えてしまう仕組みの散骨葬送。
宇宙葬プランと価格
宇宙葬(宇宙散骨)には以下の3つのプラン設定がされています。
コース | ①少量のご遺骨 | ②分骨、ご遺骨の一部 (ペットはすべて) | ③お一人分すべて (粉骨費用含む) |
---|---|---|---|
カプセル外寸(cm) | 5×5×5 | 5×5×10 | 10×10×20 |
価格(税別) | 50万円 | 100万円 | 1,000万円 |
さすがに、ご遺骨一体分を納めるのは桁が違うのですが、「世界初」に価値がありそうです。
ペットのご遺骨もOK(①と②のプラン)で、人工衛星にペットの遺骨を乗せるのも世界初となるそうです。
ご遺骨の納め方は?
ご遺骨は各々のカプセルに、サイズに応じて納めます。お一人分すべての場合には、パウダー状に粉骨する前提となっています。
そして、人工衛星となる宇宙葬用「MAGOKORO」の箱の内部に、ご遺骨を納めたカプセルが固定されるそうです。ペット用と人用の間には仕切りが設けられます。
もうひとつ、素朴な疑問があったのでぶつけてみました。
打ち上げ日が決まっているので、生前に購入するのは難しいのでは?
世界初のご遺骨だけを載せた人工衛星が打ち上げられるのは、2021年12月のファルコン9号と決まっています。
すでに該当の遺骨がある方は少ないかもしれませんし、故人がいても納骨や分骨が難しい場合も想定できます。
それを見越して、爪や髪の毛などのDNAとなるものを少量納めてもOKとのこと。
これがご自身のものであれば、DNA生前葬になります。
また、1カプセルを複数人で共用することも可能とのこと。希望者が集まれば、費用負担を軽くして、宇宙へ漂うロマンを共同で買うこともできるということなんです。
実際にそのような動きもあるそうで、小さな紙にメッセージを書いて入れるなんてこともあり得るそうです。(納められるものはご確認くださいね。)
遺族ができること
遺族や申込者は、ロケットの打ち上げ当日、その様子を見守ることができます。
アメリカのロケット発射基地現地でのお見送りツアーが組まれる予定のほか、インターネット配信でリアルタイムで打ち上げの様子を見ることができるそうです。
長年葬送業に従事した代表だからこそのセレモニーの演出も期待できるのではないでしょうか。
そしてフライトの約1ヶ月後には、宇宙葬証明書などオリジナルの記念品が贈られるそうです。
宇宙葬の可能性
今年12月の最初の打ち上げは無人ロケットによる「宇宙散骨」のみですが、有人の宇宙旅行も間近に迫ってきており、今後はさまざまなコースを検討しているそうです。
ロケットにご遺骨を乗せて宇宙空間を旅したのち、再び地球に戻ってくる「宇宙遺骨旅行」、元気なうちに宇宙船に乗って宇宙空間で人生を振り返るセレモニーを行う「宇宙生前葬」など。
そこまで待てない、という方には、SPACE NTKでは宇宙をイメージした「宇宙お別れ会」のプロデュースもあるようです。
宇宙葬まとめ
おさらいします。
- 人一人分のご遺骨を納め、宇宙へ打ち上げるのは世界初!
- 人工衛星として地球の軌道を周回、やがて流れ星となる!
- 星(人工衛星)の飛んでいる場所を確認できる!
- ペットのご遺骨、ご遺族のDNAとの合葬、DNA生前葬もOK
12月打ち上げの宇宙葬の申し込みは8月末まで、絶賛募集中とのこと。その後は毎年の打ち上げを予定し、需要があれば増やすことも検討していきたいそうです。
ブース内では宇宙葬テーマソングの生演奏もあり、とても注目され賑わっていました。葛西智子代表にも丁寧なご対応をいただき、ありがとうございました。おかげでよく理解できました。
つい先日、約10分間の有人宇宙旅行の乗船権が30億円で落札されたそうですが、遺骨やDNA、ペットちゃんなら一歩先を行けるということでもあります。
宇宙こそが生命が根源的に還る場所なのかもしれない、と思わせてくれる夢とロマンがあふれるプロジェクト。
「星になって大切な人を空から見守り続ける」「人生の最期は壮大な宇宙の旅に出たい」といった、これまで夢だと思われいた新たなニーズを開発したのが、「宇宙葬」と言えるのではないでしょうか。
12月の打ち上げには注目したいですね。
エンディング産業展2021レポート、続きます。