【お墓と映画】高倉健さんの遺作『あなたへ』にみる海洋散骨

11月10日は俳優・高倉健さんのご命日です。2014年、享年83でした。その健さんの遺作といえば『あなたへ』(2012年公開)。この映画、お墓に代わるご遺骨の弔いとして「海洋散骨」を扱っています。物語のテーマにどう関わっているのか、また健さんと散骨の縁について、掘り下げていきます。

大事な人の人生の終わりにどう立ち会うのか、考えさせられます。

こんな記事

映画『あなたへ』とは

2012年に公開された映画『あなたへ』は高倉健さんの主演作にして、遺作となった作品です。

Amazon Prime Videoより

映画『あなたへ』
2012年8月25日公開/1時間51分
監督:降旗康男/脚本:青島 武/音楽:林 祐介
出演:高倉健/田中裕子 佐藤浩市 草なぎ剛 余貴美子 綾瀬はるか 三浦貴大
/大滝秀治 長塚京三 原田美枝子 浅野忠信/ビートたけし
©️「あなたへ」製作委員会
☆第37回2012年報知映画賞 主演男優賞 ☆第25回2012年日刊スポーツ映画大賞 主演男優賞

映画『あなたへ』あらすじ

富山刑務所に指導技官として務める倉島英二(高倉健)は、妻・洋子(田中裕子)を亡くしたばかり。そこへ洋子から預かったという遺言として、二通の手紙が届けられる。

一通は「あなたへ 私の遺骨は故郷の海へ撒いて下さい」と書かれた絵手紙。もう一通は洋子の生まれ故郷である長崎県平戸の郵便局留めで、そこでしか受け取れないという封書。英二は戸惑いながらも、いつか夫婦で旅に出ようと手を加えていたワンボックスカーで平戸へ向かうことにする。

妻はなぜ生前に想いを伝えてくれなかったのか……。妻との思い出をたどりながらの約1,200キロの旅路。その道中に出会う、悲喜こもごもの人間たちの人生をも見つめながら、ついには平戸にたどり着く。そこで受け取った手紙に書かれていた言葉とは……?

映画『あなたへ』見どころ

ここから、ネタバレありにて失礼します。

健さんありきのロードムービー

『あなたへ』は、富山から長崎まで1,200キロ以上を移動する道行きと、いくつかの出会いを描くロードムービーでもあります。

実際に健さんが車を運転している姿が見られますし、寡黙な一人旅がよく似合うのも健さんらしさです。

インサートで入る妻との思い出のシーンも含め、日本の自然とそこに住む人の風景が美しく切り取られているのも、ロードムービーたる所以ですね。

ご高齢の健さんをよくぞ連れ出してくれた、と思うのですが、彼の映画歴をみればロケの似合う男でもあります。遺作に関しても紛うことなしでした。

「居酒屋兆治」「鉄道員(ぽっぽや)」など健さんとのタッグで20本を手がけた降旗康男監督だからこそ、期待を裏切りません。

豪華役者陣が印象をのこす群像劇

健さん演じる英二以外にも、この旅で出会った人物たちがそれぞれ大きな役割を担い、強烈なインパクトを残していきます。

ビートたけし演じる国語教師(じつは車上荒らし)、草彅剛演じるイカ飯の実演販売員(妻に浮気されている)、佐藤浩一演じる謎の男(もう一つの家族の物語のキーマン)など……少ないシーンのなかでよくぞそこまで語ってくれる。人物の背景や心情を演じきれる、素晴らしい役者さんたちが揃っているんですね。

不思議と悲しい身の上の人ばかりが引き寄せられますが、彼らと心を通わせることができるのは、健さんだから。さまざまな想いを胸に、妻との思い出や何気なかった日々を整理していくんですね。

そして妻の人生も、その故郷に着いたときにやっと理解できるようになる……演じた田中裕子さんの存在感も光ります。

散骨する姿を見せる健さん

海洋散骨を具体的に見せるメジャー映画は、そうそうないと思います。今から10年ほど前に製作されていますから、一般には散骨自体まだ特別な人のための変わったもの、と思われていた頃かもしれません。今ではそんなことありませんが。

そのうえ死やその遺骨の行方を物語の中心に据えるという、かなり挑戦的な設定です。商業映画として成立し得たのは、高倉健が主演だったからに他なりません。

健さんを見に映画館を訪れるお客さんが一定以上いるし、健さん自身も「大人の日本映画をつくりたい」という想いがあったそうで、同世代の観客を多分に意識していたはずです。自分や大切な人の人生の終わりをどう迎え、どう終えるのか、考えさせる機会を提供したともいえるでしょう。

散骨を、実際に遺骨を海へ撒くところまで演じて見せていますが、このシーンには突っ込みどころもあります。骨壷から手で取り出して撒くという設定のため、粉骨状態ではない?と思われることです。

現在日本では、2mm以下の粉骨(パウダー状)にしなくてはならないというガイドラインがありますが、当時もそうした運用が一般的だったようです。この懸念について気になったので、『あなたへ』のノベライズ版をチェックしたところ、散骨の規定にのっとり、自分の手で骨を砕く描写がありました。泣ける……。英二さん、散骨ルールを守ってましたのでご安心を。

パウダー状のものを撒くより、ある程度形のあるものを撒いた方が、視覚的にわかりやすいと考慮しての演出だったのでしょう。こうした細かい点よりも、このシーンへ至る経緯も含めて「散骨を決意する想いがどんなものか」が伝わる映画であることは間違いありません。

涙は流さず黙して一連の作業をこなしたあと、夕日に照らされた健さんの姿が、すべてを物語っていました。

高倉健さんのこと

映画の公開から約2年後に、高倉健さんの死が発表されました。すでに荼毘に付されたあとでした。

ゴシップ的にはなりますが、健さんの養女によって秘密裏にすべてがなされ、故郷の親族にさえもあとから知らされたそうです。

そして、健さんのお墓は建てられず、散骨されたといいます。すべて本人の意思により、詳細は伏せられているとのこと。

散骨に否定的であれば、『あなたへ』には出演しなかったでしょうから、散骨自体は頷けます。

でも、母親思いで、故郷のお墓参りを欠かさなかったというエピソードものこる健さんですから、お墓がないことにも異論があるようです。一体どこまでが本人の意思だったのか、すべては謎のままです。

プライベートは語らず、のこさないのが健さんらしさとも言えるかもしれません。

せめてこの映画があったことが、健さん自身が死というテーマに向き合った濃密な時間がたしかにあったのだと、わたしたち観客に伝えてくれているのではないかと思います。

高倉健さんの遺作は、散骨が物語の軸にある珍しさがありながら、映画のありがたみを再確認できるものでした。

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