先日、地上波テレビのニュース番組で「お墓のサブスク」が取材され、放送されました。ネット上では「お墓までサブスクの時代になったか!」といった反応も見られ、インパクトがあったのではないかと思います。
おはかんりとしても以前から注目していたのですが、ここへきて動きが大きいので、お墓のサブスクの実際のところを調べてみました。
“サブスク”と“お墓”がくっついた「サブスク墓」って、どんなもの?
お墓にもサブスク登場
いよいよ誰もの生活の一部になっているであろう月額定額制のサービス、サブスクリプション(subscription)。
サブスク(サブスクリプション)の定義や解釈も、サービスや状況によってさまざまなのかもしれませんが、一般的な認識は「期間を定めて一定額で提供されるサービスを、継続的に受けること」でしょうか。
“サブスク”流行りの立役者といえば、Netflixをはじめとする動画配信サービスや音楽配信等のエンタメ関連。そこからジャンルを問わずネット上やスマホアプリを通じて提供されるツールやサービスを使うことは、当然のように「サブスク利用」になっていますよね。
デジタルツールに端を発して「サブスクリプション」という言葉が浸透しましたが、月額定額でのサービス利用はこれまでもありました。NHKの受信料や新聞購読、習い事のお月謝なんかも、今となってはサブスクと言えます。
また、これまでレンタルと読んでいたものを、サブスクと呼び替えることも増えてきたようです。家具や家電のレンタルや、車も所有するのではなくサブスク利用に、なんでもサブスクと呼ぶと、自由で気軽、かつ主体的に選択するサービスのようで、今っぽく聞こえてきますね。
前置きが長くなりましたが、そんなサブスクがお墓にもやってきた、という話です。
墓石やその土地をレンタルする「レンタル墓地」というものはこれまでもあったようですが、ここでは新規にサブスクとしてサービスを開始したものをご紹介します。
現在のところ、大きく“サブスク”を打ち出して本格稼働しているサービスは、先のニュース番組で紹介された「偲墓(しぼ)」と、ベンチャー企業発の「のうこつぼ」の2つです。
それぞれ、背景や特徴を見ていきます。
偲墓(しぼ)
途切れない供養のカタチ
公式サイトで一番に目に入るキャッチコピーは「途切れない供養のカタチ」で、供養の気持ちに寄り添う姿勢が感じられます。
偲墓(しぼ)の仕掛け人は、三重県松阪市にある仏壇仏具販売店の野呂英旦さん。「遺骨を自宅に置いたまま」というお客さまの悩みに着目して、考案されたそうです。
供養したいのにできない……のは、お墓の費用の高さがネックであること、現代人のライフスタイルにマッチしていない形式への違和感から、あたらしいお墓の形、供養のカタチを打ち出したのが特徴です。
「偲墓(しぼ)」の特徴
- 低料金でお墓が持てる
- 遠方でも申し込み可能
- お墓の管理は不要
- いつでも解約可能
- わかりやすい料金設定
- 決めた期間だけ墓地が持てる
- 寺院の移転ができる
- 宗旨・宗派は問いません
- 定期的なお墓参りが難しい
- 自宅で遺骨を保管している
- 高価なお墓はいらない
- チラシより抜粋
初期費用あり、サブスク3,000円
初期費用として税込275,000円がかかり、サブスクとなる月額料金は税込3,000円です。
初期費用には、以下のいずれかのデザインの個別の墓石代(彫刻費込み)、入仏法要(四十九日法要)が含まれます。
サブスク料金に含まれるのは、墓地管理費(清掃・線香・仏花など含む)、各法要代(百か日、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌)、システム管理費、永代供養料となっています。
初期費用がかかりますが、法名や戒名を記した個別の墓碑と骨壷を納める、その人だけのお墓が持てるということです。一般のお墓の相場の1/3〜1/5程度と考えられますが、サイズ感もそのくらいのコンパクト設計です。
お寺が供養をしてくれる
お寺での設置イメージはこのような感じ。月額料金で、ほかのお墓と一緒に、日々のお掃除や供養を代行してくださるというのは安心です。もちろん、オープンスペースにあり、いつでもお墓参りに行くことができます。
提供地域はまだ限定的
サービス開始間もない現在は、三重、大阪、愛知、奈良であわせて8つの寺院との提携がされています。地域が限定的であるため、近隣の方や、遠方に住んでいてもなんらかの地縁がある方が対象となるでしょう。
今後どのくらい提携のお寺が増えるか、サービスを見守りたいところです。
のうこつぼ
お墓ベンチャーの本気
「いつでも入れるいつでも出られる寺院のお墓」と、サブスクの特徴を打ち出しているのが「のうこつぼ」です。
もとは「ニューノーマルなマンション型のお墓」として、定額で集合型墓地「のうこつぼ」の販売をスタートさせていました。2016年から2020年6月までに全国約150か所のお寺との提携を実現しており、さらなる業務拡大・加速のため昨年10月に株式投資型クラウドファンディングで資金調達をしています。
お墓ベンチャーの株式会社愛心は今年3月、株式会社のうこつぼと会社名を改め、6月、満を持して投入したのが「サブスクのお墓」という訳ですね。
「のうこつぼ(サブスク型)」の特徴
- 安価
- 近距離
- 寺が管理
- 永代供養付
- 合祀も可能
- 多彩な支払い方法・クレジットカード対応可
- 引っ越しても定額・追加費用無し
- 追加納骨でも定額・追加費用無し
- ご自身のタイミングで解約が可能
- 供養に関する初期費用を抑えたい
- 転勤などで引っ越す機会が多い
- お墓の管理をお任せしたい
- 公式サイトより抜粋
初期費用0限、サブスク3,980円
初期費用、墓石代、システム管理費すべて0円、サブスクとなる月額料金は税込3,980円と、気軽さ・安価をうたっています。
ただ実際には、お名前のプレート代(33,000円)と、納骨時の開閉立会費(22,000円)がかかるということで、初期費用0円という訳ではありません。墓石の購入がないという意味で、スペースレンタルの色合いが濃い、サブスクシステムです。
「のうこつぼ」は購入すると、一室498,000円(税別)〜ということなので、およそ10年以上利用し続けるのであれば、購入型も選択肢に入るかと思います。
サブスクは初期費用を抑えたい、先々どういうライフスタイルになるかわからない、など不確定要素が多い人や、お墓を所有することに抵抗がある人のために用意された選択肢ともいえるのではないでしょうか。
“永代供養”の新しいかたち
いくつかの納骨室(カロート)が並んだ「のうこつぼ」は、中央部分が合祀墓になっています。
サブスク契約を終えたいタイミングで弔い上げを希望すると、納骨室からその合祀墓にご遺骨が移され、永代供養に切り替わります。
墓じまい(改葬)というこれまでの考え方ではなく、永代供養に切り替わるだけなので、管理・継承者の金銭的、精神的負担はほとんどかからず、煩雑な手間も必要ありません。
サブスクでありながら、いまお墓選びのスタンダードになりつつある永代供養ができる点を強調しているようです。
選べる寺院の数、キャンペーンも
2016年頃から提携寺院を増やしているだけあって、今年6月のサブスクサービス開始時ですでに170の寺院と提携ができています。北海道、沖縄をのぞき、各地方を網羅し、アクセスが良い都心部にも力を入れているようです。基本的に生前の宗教などは問わないことになっていますが、宗派もさまざまあるお寺から、好みを選べるのは良いですね。
ただ現状すべてがサブスクに対応している訳ではないようなので、要確認です。HP上で検索ができ、電話とLINEの相談窓口が365日対応しています。
「偲墓(しぼ)」「のうこつぼ」比較表
偲墓(しぼ) https://ohaka.inory.jp/ | のうこつぼ https://noukotsu.co.jp/subscription | |
---|---|---|
タイプ | 墓石タイプ 石碑・骨壺が一体型になった石碑 | マンション/ロッカータイプ お寺によって姿形が異なる |
初期費用 | 275,000円(税込) ▼含まれるもの ・墓石代(彫刻費込み) ・入仏法要(四十九日法要) ・供物費(線香や仏花などの費用を含む) | 0円 ▼別途必要 ・お名前のプレート代(33,000円) ・開閉立会費(22,000円) |
月額料金 | 3,300円(税込)/月 ▼含まれるもの ・各法要代 (百か日、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌) ・システム管理費 | 3,980円(税込)/月 墓石代・管理費不要 |
オプション | ◉戒名/法名代 ※俗名での納骨も可能 ◉寺院移転 55,000円(税込) 移動運搬費/双方の寺院での法要費 | ◉納骨式(百花葬) ◉お布施、戒名、塔婆など 寺院により異なる |
提携寺院数 | 8ヶ所(2021年6月現在) 三重県(4)愛知県(1) 奈良県(1)大阪府(2) 東海・近畿エリアを中心に順次拡大予定 | 全国170ヶ所(2021年4月現在) サブスク未対応含む |
宗教・宗派 | 問わない | 問わない |
ペット | 不可 | 一部可能な寺院もあり |
引っ越し | 可 | 可 |
解約後 | 永代供養墓へ | 合祀墓へ |
その他 | ・生前申し込み可 | ・4~5名分の遺骨を収容可 ・クレジットカード対応可 |
運営会社 | 株式会社佛英堂 (三重県松阪市) | 株式会社のうこつぼ (東京都目黒区) |
比較してみて
2つの「お墓のサブスク」サービスを比較してみて、主な違い、分かったことをまとめます。
①墓石の形態の違いによる、初期費用負担
初期費用は、大きく異なる部分です。
「偲墓」は、小さいとはいえ墓石を購入する形のため、どうしても墓石代が必要になります。
「のうこつぼ」はロッカータイプで墓碑はプレートとなるため、初期負担は軽くなります。
ですから、同じ「サブスク」とうたっても、持つか持たざるかの形式が違うため、費用面での単純比較は難しいということ。
②年忌法要をどう考えるか
故人の供養には、年忌法要があり、これは日本の文化にもなっていますよね。
「偲墓」は伝統的な供養文化も重んじて、サブスク契約が続く限りは、十三回忌法要までをセットしてくれています。想いはあってもなかなか叶わない現代人のライフスタイルを考えると、個別の法要が自動的についてくるのは、安心感がありそうです。
「のうこつぼ」にはこのサービスはありませんので、法要を希望する場合には別途依頼する必要があります。提携寺院の数も多いので、その点は一律にすることが難しいのかもしれません。
ただ、個人に応じることは難しくても、寺院墓地である限りはお彼岸会や施餓鬼法要などがあると考えられますし、法要を個別に頼めるか、料金なども事前に確認できることでしょう。
お寺との関係性が変化し、伝統や年忌法要にもさまざまな考え方があるからこそ、関わり方も自由であるのはどちらにも共通するところです。
③永代供養が付いている安心
サブスク契約を終えたいとき、その旨を伝えれば、負担なく永代供養に切り替えられるという点は、いずれも共通しています。物理的なお骨をどうするかという問題に対して、最初から答えが明確です。
お墓の課題である、後継者がいないことや、子や孫に負担をかけたくないといった悩みに対応したい、解決したいという想いが結実していますね。
もちろん、将来別の形で供養することも考えられるので、判断を先送りするといった個々のニーズにも対応できるものです。
お墓を考えるきっかけに
今回比較してみたお墓のサブスク「偲墓」「のうこつぼ」はどちらも、昨今のお墓事情や、ライフスタイルの急速な変化に対応するべく開発されたサービスです。これから提携寺院や利用者の声なども増え、サービスも発展し、より便利になっていくいくことでしょう。
それぞれの特徴を見ていくことは、お墓に対する具体的な価値観や、それぞれの供養観を考えることにつながると感じました。サブスク墓以前のお話ですね。
なぜお墓を持ちたいのか、どのぐらいの期間、どんなお墓で、どう供養したいか(されたいか)、どのような選択肢を、誰に委ねるのか、考えることは意外に多くあります。
改めて、先が読めない時代のお墓の管理問題も、考えがいのある深いテーマだな、と思うのです。
「お墓のサブスク」をきっかけに、身近な人と話し合ってみるのもよいかもしれません。
※本記事は2021年7月7日現在の情報によるものです。