【お墓と映画】死ぬほどお墓が欲しい? 『お墓がない!』が問うもの

映画「お墓がない!」

そのものズバリ、お墓の映画といえばこちら『お墓がない!』(1998年公開)。「お墓」を全面に出すタイトルが画期的ですよね。いったいどんな映画なのか、初めて鑑賞してみました。

観ない訳にはいかないタイトル!中身はどんな?

こんな記事

映画『お墓がない!』とは

岩下志麻がコメディに挑んだ異色作

映画「お墓がない!」
Amazon Prime Videoより

映画『お墓がない!』
1998年2月7日公開/109分
監督:原 隆仁/脚本:大森寿美男/音楽:大島ミチル
出演:岩下志麻、袴田吉彦、安達祐実、高橋ひとみ
©️1998 光和インターナショナル/フジテレビジョン

本作の公開は1998年、「極道の妻たち」シリーズの岩下志麻さんがコメディ映画に初主演していることがポイントでしょう。主人公の超映画スターが一般人と同じような悩みを持って、奔走する姿をコミカルに描いています。先行した舘ひろし主演作『免許がない!』(1994)と似た設定の姉妹作とのことですが、監督も脚本も異なるオリジナル作品です。

銀幕の女優・岩下志麻さんをキャスティングした点だけとっても見応えたっぷりですが、社会派かつより多くの人に身近なテーマを扱っている点で間口が広い、異色作となっています。

『お墓がない!』あらすじ

大女優の桜咲節子(岩下志麻)は新作映画『宣告』の役作りのため、取材で訪れた大学病院で検査を受けると「がんで余命半年」を宣告されたと勝手に勘違いしてしまいます。自らのお墓がないことに焦りを感じた節子は、周囲には黙って映画スターに相応しいお墓を探しはじめます。実は孤児院育ちで縁者がないことを隠していたのです。

郊外の大規模霊園への見学バスツアーに参加した節子は、お墓の仕組みも知らずにスタッフを困らせるほど世間知らず。撮影を抜け出してはおばあちゃんに変装し、素性を知らない葬祭会社の若手社員・川嶋(袴田吉彦)とともにお墓探しに明け暮れます。しかし葬儀やお墓の知識を深める節子は、どのお墓にも満足できません。一方で撮影でも「死」に向き合ううちに、映画の結末にも疑問を抱くようになり、ついには現場で倒れてしまい……。

プライドが高くわがままな女優が、周囲の人々を振り回し、交流しながら、お墓の意味だけではない、人生の意味を見出していく痛快コメディです。

『お墓がない!』の見どころ

岩下志麻に主演をさせたことはもちろん、特別出演の安達祐実はじめとした俳優が脇を固め、コミカルに演じているのも見どころですし、なにより「お墓」をテーマに持ってきた目のつけどころが斬新でしょう。

一般的には大ヒットや評価とは無縁のような映画と見られるかもしれませんが、こうした映画こそが世相をあらわしているものです。

当時すでにお墓がない人が増えていたことや、郊外型霊園や多様なスタイルのお墓が出始め、人々の関心を集めていたことを反映してのこと。コメディの形で届けることで、観客にもきっかけを与えるようなストーリーとなっています。

では、『お墓がない!』が二十数年も経ってみてもなお、見どころ満載で語られるべきだと思う理由を、お墓の観点であげてみましょう。

お墓と映画『お墓がない!』

お墓探しを体験できる

ロケで撮影された当時の風景がのこっているのが映像作品の面白さです。本作は撮影協力クレジットから「相模メモリアルパーク」「さがみ野霊園」「冨士霊園」といった郊外型霊園で撮影されたことがわかりました。

1990年代後半ですから、いわば郊外型の老舗がどんな様子だったのかを知ることができるのですが、自然豊かでとても魅力的なんです。主人公の節子が変装して参加したような霊園見学のバスツアーは、当時盛んに行われていたのでしょう。映画でも観客はそれがどういうものかを知ることもできます。

さらに、販売会社のスタッフ側も描いているので、ある意味お墓ビジネスの裏側をのぞき見する感覚もあります。お墓の相場については「1平米48万円が相場、2.5平米だと120万円ほど。都心なら600〜800万円しますが、年に2〜3回しかお墓参りしないのにそれだけかけますか?」なんてセールス文句も披露されます。

また、墓地の定期使用権を企画している様子から、墓地は永代使用するものという考えが絶対だったように描かれていました。業界の小ネタが随所に盛り込まれているのはリサーチの賜物で、面白いところです。

仁徳天皇陵をヘリコプターで見学しちゃうスターっぷりは置いておいても、由緒あるお寺のお墓、芝生墓地、納骨堂など、さまざまなタイプを比較検討する様子を描いて、お墓の基礎知識を主人公と一緒に学べるつくりになっていました。

お墓の課題は変わらない?

映画の撮影は1997年頃ですが、一緒にお墓探し体験をしてみると、20年超えの歳月をあまり感じさせないことに驚きました。

現実には今はリアルなバスツアーはないでしょうし、納骨堂は機械化されて進化もしているのですが、郊外型墓地から見える自然の景色はきっと変わらないし、お墓探しをする人たちの悩みや不安、切実さもさほど変わらないのではないか、と。

もちろん、映画の描かれる場面はそれなりに古くて懐かしいのです。レンズ付きフィルムカメラが出てきたり、携帯電話はIDOだし、仕事中にタバコをぷかぷか吸っているし。20年を経ると社会は否応なく変化するな、と実感するのに、お墓やお葬式まわりのことは古く感じないのです。

変わらなさはお葬式や戒名のお値段のような現実的なものと、そもそもお墓に何を求めるのかという精神的なものと、双方にあります。先見性を伴った「お墓」に関する社会課題が、引き継ぎされずにそのまま積み残っているようなものでしょうか。

お墓に関しては、よく分かっていないことには、比較のしようがないことも一因でしょう。興味を持つ世代が限られてしまうことで、どうしても分断されがちな課題だな、と改めて思いました。

大女優の名言続出(ネタバレあり)

桜咲節子さん、自らのお墓を探すために本を読んだり、行動にうつしたり、とても勉強熱心です。末期がんが勘違いだとわかっている観客から見ればその必死さが可笑しいのですが、のこされた時間が僅かとなった切実さを想像すれば、十分に共感できるものです。

節子の思考の変遷は、女優らしい台詞に顕著にあらわれていきます。

赤木圭一郎、美空ひばり、石原裕次郎……お墓があるから忘れられないのよ、死ぬほどお墓が欲しい!

自分の実力でいまの地位を築いてきた節子にとって、そのプライドは並大抵のものではありません。目指すべきは大スターたちであり、お墓が欲しい理由をも先人に結びつけていました。出自を知られることは女優の恥だとも思っています。

このウソは絶対、墓場まで持っていきます。

一方でこうも考えていました。死後の名前となる戒名料について、高ければそれだけあの世で幸せになれると説かれ……

幸せをお金で買いたくはありません。幸せは、努力して勝ち取るものです。

大女優になった現在の姿よりも、そこに至る過程がなにより彼女の支えになっていたのでしょう。お墓や死後を考えることで、自らの信念や気持ちに気がついていくのです。

この変化は撮影現場にもあらわれていきます。若手女優(安達祐実)や映画監督とも本気でぶつかり合い、影響を与える存在であることも証明していくのです。

こうして徐々に考えを変え、行動にも変化があらわれ、最終的に……

私にお墓はいりません。大切なのは形ではありません、送る人と送られる人の心と心が通いあうことです。

『お墓がない!』本編セリフより

芯が強くつねに真っ直ぐな節子だからこそたどり着いた結論は、「お墓がない」自分を肯定するものでした。お墓に向き合った結果、人生を見つめたからこそ出てきたセリフでしょう。

また、映画の中の映画のシナリオが、節子の気持ちに重なっていくことも、本作でセリフ・脚本に注目したいポイントとなっています。映画ならではの仕掛けも楽しめました。

まとめ

女優のプライドに重なって、映画は一流のスタッフによって作られているものという自負まで感じられた『お墓がない!』、さすがでした。

お墓に注目しないとなかなか出会えなかった作品であることがもったいなく、もっと世代を超えて共通のテーマとして捉えられたら……と、課題も発見できる映画でした。

とはいえ昔の映画でもいつでも観ることができますから、気軽にお墓に触れるきっかけに、おすすめしたいです。

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