厳しかった猛暑がやっと明けた10月のある日、千葉県長南町にある樹木葬墓地「森の墓苑」を見学してきたのでレポートします。今回は、定期的に開催されている現地見学会の日に足を運びました。
森の墓苑とは
「森の墓苑」は、房総半島の千葉県長生郡長南町にある樹木葬墓地です。その名のとおり緑の木々に囲まれた敷地にありました。

名称 | 森の墓苑(もりのぼえん) |
所在 | 千葉県長生郡長南町市野々815-2 |
開苑 | 2016年 |
運営 | 公益財団法人 日本生態系協会 |
公式サイト | https://www.morinoboen.org/ |
公式サイトがたいへん充実しており、お墓を検討する方にとって必要な基本情報は、ほぼ得ることができます。
ただ今回現地説明会に参加してみたことで、より深く濃く体験することができたので、森の墓苑のコンセプトとともに、ここでもご紹介します。
自然の中に眠り、森を育てるお墓
「自然の中に眠り、森を育てるお墓」。これが、「森の墓苑」のメインコンセプトです。
では、森を育てる、とはどういう意味なのでしょうか? 苑内を歩きながら、ご案内いただきました。
失われた景色を取り戻す
ここは、かつてバブル真っ只中のころ、コンクリ等の資材調達のために岩石や土砂が掘り起こされた山でした。樹木や草木を失い山の生態系が一部失われたまま、平らな荒れた土地として残ってしまっていたそうです。
この一帯の森を含む約2ヘクタールを、公益財団法人日本生態系協会が取得し、立ち上がったプロジェクトが、樹木を再生しながら、自然を育む墓地にすること。すなわち、お墓としての機能だけではなく、自然の保全と再生が大きな目的となっている、ふたつの側面のあるお墓なのです。

50年後には自然の森になり
森の再生計画は、かなりしっかり決まっています。
開苑(2016年)からの50年間は、墓地としての管理が行われますが、以降は徐々に森林としての管理になっていきます。
墓地としての管理については、埋葬後原則30年は、区画や通路等は管理され、その後はだんだんと自然の遷移にゆだねるという管理方針です。ですので、30年を目途にお墓から自然の森へと、徐々に見え方も変わっていくんですね。
ご遺骨は、骨壺から白布袋に移されて埋葬されます。墓標はシンプルな木製プレートのみで、自然に還らない素材のものは埋めることができません。

樹木葬墓地「森の墓苑」の特徴
土地に由来の樹木種を選ぶ
特徴的なのは、樹木葬特有のシンボルツリーを、多くの種類から選ぶことができる点でしょう。

この地に自生する木々のうち、低木または高木の種類、区画や場所によって、相談しながら選ぶことができるそう。
このように、高木区画は濃色、低木区画は薄色と、細かく設計され、成約済み区画も一目瞭然となっています。

紙の区画図では、現在どの区画にどの樹が植えられているかも、確認することができました。自然への遷移がスムーズにできるよう、専門家によってバランスも考慮されていて、細かく調整されている様子がうかがえます。
区画バリエーションが豊富
森の再生計画に基づいて、また様々なニーズに応えるように、販売されている区画の種類も充実しています。大別すると、個別墓と合葬墓(個別区画)、合葬墓(区画内合葬)の3種類です。
①個別墓
区画の大きさ(約1.5㎡~3.0㎡)と、勾配の位置による眺望などにより5種の墓域があります。
1段目から「ひばり」、2段目に「せきれい」、3段目に「うぐいす」、最上段に「みそさざい」と日本の野鳥の名前が付けられているんですね。
また、今年から3段目の森に近い場所に低木区画「りんどう」がリニューアルされているそうです。
埋葬管理委託料は、662,037円(ひばり)~2,037,037円(みそさざい)まで幅広くラインナップされています。
⓶合葬墓「樹」
シンボルツリーが決まっている1名用の個別区画(約50cm四方)です。木製ネームプレートを設置できます。
こなら
1段目に位置する「こなら」がシンボルツリーの区画。
埋葬管理委託料は、305,555円。

高木に類する小楢(こなら)はどんぐりの実をつけます。
やまざくら
2段目に位置する「やまざくら」
埋葬管理委託料は、356,481円。

森の墓苑が50年後に目指すのは、もともとこの地域に自生するコナラとヤマザクラが優占する明るい落葉広葉樹林。シンボルツリーとして大きく育ってほしいですね。
③合葬墓「野の花」
1区画(約30cm四方)に、8名分が合葬されるためよりリーズナブルです。
やはりこの地に自生する草花をシンボルとする「たんぽぽ」(1段目奥/154,000円)、「すみれ」(2段目奥/176,000円)の区画があります。「野の花」では、生前契約、ペットの埋葬、ネームプレートの設置はできません。
山の勾配に合わせた設計と見晴らし
墓苑内をぐるりと一回りしてみました。1段目、2段目、3段目、最上段と、区画ごとに登っていきます。小路が整備されているので、とても歩きやすいです。





眺望が開けているのはやはり最上段です。近隣の山々が近くにも感じられます。この日は曇り空でしたが、どの木も四方から十分にお日様を浴びることができる環境でした。
風が通り抜ける心地よい空間は、季節によってさまざまな顔を見せることでしょう。いわゆる霊園・墓地とはほど遠く、まるでピクニックに来ているようです。
「森の墓苑」の環境保全
森を守り育てる活動
墓域周辺の森の環境への配慮も行き届いています。野鳥のための巣箱を設置したり、虫たちのお家を作ったり。




すぐ脇にはビオトーブの池があり、ここには絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオが生息しているそう。研究と実地の放流活動など学生さんたちの学習体験の場となっていたり、地域の方々に向けては、植樹や池の掃除、外来植物抜き、竹炭づくり、生きもの観察会など多彩な活動も。
それもそのはず、森の墓苑は、2020年に千葉県初の「体験の機会の場」として認定を受けています。環境省が推進するこの「体験の機会の場」は現在全国で34か所、千葉県では唯一です。イベントや研修・ワークショップに訪れる人々とともに、まさに森を育て、守る活動が進められていることが分かります。
「森の墓苑」の設備
自然に目を向けていると、ともするとお墓であることを忘れそうですが、墓苑としての設備も十分でした。
森は火気厳禁。お線香は、墓域を見渡せるこちらの祈祷・焼香台で。

供花については、墓所に捧げてOK。1週間ほどで、管理人さんが回収してくださるそうです。

管理棟では、飲み物も提供されており、ゆっくり休憩することができます。

水回りも清潔に保たれ、虫除けスプレーも貸していただけるなど、各所に配慮がされていました。
千葉県長南町のふるさと納税にも
変わったところでは、千葉県長南町のふるさと納税の返礼品としてラインナップされていることです。
寄付金額100万円で合葬墓「こなら」の、50万円で合葬墓「たんぽぽ」の永代使用権が得られます。
また、新たに墓苑周辺の自然保全地域で森づくりに参加できる体験メニューも登場したそうです。(寄付額1人5,000円,11月~3月のみ)土地の自然を知り、里山保全活動を実地で体験するよい機会となりそうですね。
このように地元自治体と共存共栄し、将来にわたって自然保全区として守られる安心感にもつながるのではないでしょうか。
こんな人に~森の墓苑~
「森の墓苑」は特色も魅力もはっきりとあり、コンセプトが明快でブレのないお墓でした。開苑から8年を経ているからこそ、そのことがより確からしく感じられます。
一般的な樹木葬・永代供養墓にいえる、承継者不要で維持管理費・手間がかからないことなどを求める「おひとりさま」「子どもがいない」「お墓を承継させたくない」「改葬先を探している」といったニーズに加えて、以下のような人におすすめできます。
- 山が好き、自然が好き
- ペットと共に眠りたい、眠ってほしい
- 自然環境を大事にしたい、共存したい
- シンボルとなる樹木を選びたい(指定種より)
- 宗教不問、宗教色がないお墓がよい
- 未来を見据えたお墓選びがしたい
コンセプトに共感する人というのが第一ですね。
一方、気をつけておきたい点は、一度埋葬したら永代的にそこに眠ることになるため、改葬ができないことです。
また特性上、都市部から離れてることは否めません。ただ、人里離れた山奥かというと決してそんなこともありません。
都心から車で1時間余りで到着できましたし、電車の場合も、月に1~2回の見学会時には最寄り駅からの送迎もあり、少ないですがバスでのアクセスも可能となっています。
いつでも温暖な気候の土地柄で積雪がほぼないため、年間を通じてお墓参りができるのも魅力ではないでしょうか。実際に、四季折々で訪ねてみたい気持ちになりました。
まとめ
都心からも近い樹木葬墓地として、前々から気になっていた「森の墓苑」。
車で1時間余りというアクセスの先に、こんなにも自然を感じられるお墓があることに、驚かされました。
この日も見学のほかに、数組のお墓参りのご家族の姿が見受けられ、決して寂しい印象がありません。お参りする側にとっては、故人と自然に、いっぺんに会える場所であり、木々の成長を確認できる機会なのだと感じました。
自然の中に眠り、森を育てるお墓。
このコンセプトがしっくりきました。お墓選びに、未来を見据える視点を加えてくれます。
墓地開発と自然再生という一見相反しそうに思えるものが、共存し得ることを見せてくれます。里山にも人々にも優しい未来が待っていると、楽しみになります。
エコやサステナブルがますます重視されるようになり、まだ知らなかった人たちの需要ももっとありそうで、全国にこうした取り組みが増えればよいと思いました。
帰り際、ご近所で採れたというすだちとミョウガをお土産にいただいたのも嬉しかったです。ありがとうございました。

※本記事の情報は2024年10月現在の情報です。
※追記:11月から1月の現地説明会の日程・詳細が、下記に出ています。
