近年お墓に関連する話題として、イスラム教徒(ムスリム)の土葬墓地の問題があります。火葬率99.99%の日本では、たとえ宗教上の理由であっても土葬できる墓地が極端に限られており、在留外国人の増加に伴う土葬墓地の不足が顕在化しつつあるのです。
そんな中、都心からそう遠くない埼玉県本庄市に、土葬区画のある霊園があると知り、見学してきたのでレポートします。
本庄児玉聖地霊園の概要
「本庄児玉聖地霊園」は、埼玉県・本庄市の民間霊園です。平成7年より、いわゆる墓石型の一般墓地区画の提供をしており、現在では土葬も受け入れています。
名称 | 本庄児玉聖地霊園(ほんじょうこだませいちれいえん) |
所在 | 埼玉県本庄市児玉町秋山495 |
開園 | 1995年 |
運営 | 関東商事株式会社 |
公式サイト | https://honjokodama-seichi-reien.jimdosite.com/ |
本庄児玉聖地霊園の土葬区画
霊園敷地内に入って、砂利道を上り少し高いところへ出ると、車が数台停められるスペースと管理事務所があり、さらに奥にも続く広い敷地が広がっていました。
管理事務所に向き合う形で、さらに少し高台となって広がるのが土葬墓地区画です。
大きな石で囲われたものから、簡易的な墓標のみのもの、墓域を囲っただけのもの、さまざまな弔いの形があることが分かります。
少し離れた奥に、キリスト教徒のための区画があり、まだ数基のお墓しかありません。
管理事務所に併設して、イスラム教の礼拝堂あり。また、ムスリムの埋葬儀礼に必要な洗体場も完備されていました。
本庄児玉聖地霊園の土葬料金
土葬にかかる費用は、墓地使用の埋葬料金として、大人区画サイズ(1.5m×2.5m)が30万円となっています。
あわせて、任意の墓石や墓標にかかる初期費用がかかるでしょう。また、管理料として、年間12,000円が必要です。
奥の方に整備されたファミリータイプの区画(2名様~)もあり。
生前予約や詳しい料金体系は霊園にお問合せください。
また、在留外国人の葬儀を専門に手掛けている燈台舎さん(東京・立川)では、土葬を希望する方の葬儀から本庄児玉聖地霊園への埋葬までを一貫してサポートしています。
こうした体制が整っているのは、心強いのではないでしょうか。
埋葬(土葬)の経緯と現状
本庄児玉聖地霊園が土葬の受け入れをはじめたのは、令和元年(2019年)からだそうで、まだ6年を経過していません。
現在までの埋葬件数は110件(ムスリム区105、キリスト区5)とのこと。
昨年1年間では33件の埋葬があり、国籍別では、ムスリム比率が高い国であるパキスタン、バングラディッシュがもっとも多く、スリランカ、インドと続きます。日本国籍の方も6名いらっしゃいました。
都道府県別では、上位から埼玉、群馬、東京、神奈川、栃木と関東圏が多いものの、ムスリム墓地のない沖縄からも2名など、全国各地からの需要があるようです。
じつは訪問した日、静かだろうと思っていた霊園にたくさんの人が集まっていました。ムスリムの装いをしている男性たちもいたので、葬儀か埋葬の最中かしら?と思ったのですが、近づいてみると大きな音のする電動草刈り機を使って、草刈り作業が行われていました。
あとで話を聞くと、ガーナ人のグループが年に1度、墓域の草刈りのためにボランティアで来てくれているのだそうです。
数年前にガーナ人ムスリムの一人が亡くなり、この墓地に土葬できることになったものの、その当時は埋葬料金を用意するのがやっと。そこで、困った彼らに霊園で余った石材を提供し、なんとかお墓の体裁を整えることができたそうなのです。その恩義からか、毎年グループで訪れては草刈りをしてくれているようです。
お墓を通じたつながりが生まれているんですね。
彼らがももし日本で亡くなったら、ここに眠れるという安心感があるのではないでしょうか。その時のため、仲間のため、墓地をきれいにしている様子を目にして、国や宗教を超え、お墓の意味やあり方を考えさせられました。
あまり知られていないのはなぜ?
正直なところ、東京からも近い埼玉県に、土葬墓地があることを最近まで知りませんでした。大手の墓地検索サイトではヒットしないのも一因でしょう。聞けばその理由は、積極的な宣伝をしていないからだと分かりました。
昨今ニュースにもなっているように、土葬墓地の新規開設は地元住民の反対にあったり、用地が確保できないなど、多難なイメージが先行していることは否めません。
一方で本庄児玉聖地霊園は、開園当初より土葬墓地としての申請を通していたのだそうです。とはいえ、在留外国人の増加を見越した先見の明があった、という訳ではなかったようです。
この地域では昔から土葬の習慣があったのだそうで、ならば土葬の許可をとっておくことも自然の流れだったといいます。土地の風俗に従っていたのが結果的に、日本人の土葬が実質的になく、困っているムスリムの方、土葬を求める方のニーズに応じることができたのだということ。
門戸は開いていますが、積極的な宣伝をすることは本意ではないし、必要もないのかもしれません。先のガーナ人たちや口コミで広がるつながりがあるように、求める人には届くのだろうと、とても納得感がありました。
土葬区画にはまだ十分な余裕があり、この先自ずと利用者は増えていくでしょう。
まとめ
土葬墓地のあり方や今後の課題は、引き続き注目していきたいテーマです。葬送の自由は、信教の自由と切っても切れない関係にあり、基本的人権のひとつと考えられるからです。
今回見学した土葬墓地は、ある意味そうした自由を実現し、感じられる場所でもありました。青空の下、緑に囲まれ、ただ大地がそこにある。お墓それぞれに個性があって自由。制約から解放されているようにも思えました。
極端に画一化した日本の火葬という葬送と、それしか知らない現代日本人は、ともすると多様性や配慮に欠ける文化を育てているのかもしれません。かつては土葬も当たり前だった日本の、急速な変容は、どこかに歪みをもたらしていないでしょうか。
多様な生き方を受容する社会を目指すのであれば、死にまつわる弔い・弔われ方の自由や多様性にも寛容でなければなりません。そのためには、信仰や文化への理解も必要です。
やはりお墓から学ぶことは多く、現場ではじめて知ること、さらなる問いも増えた見学でした。ありがとうございました。
※本記事の情報は2024年10月現在の情報です。