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【お墓と本】モーパッサンの短編『墓』〜誰をも黙らせる愛の形

「墓」モーパッサン

フランス文学にも『墓』というタイトルの短編小説があったので、読んでみました。19世紀、遠いヨーロッパの地でも「墓」が表題になって、しかも作者は有名なモーパッサンとは、興味深いですよね。短編なので読みやすいかと思いきや……想像を超えた濃さでしたよ。

お墓きっかけで、読書の世界も広がっちゃいます♪

日本の正岡子規が『墓』を書いたのが1899年で、近い時期に同じように短編のテーマにされていたんですね。

こんな記事

ギ・ド・モーパッサン(1850-1893)

Guy de Maupassant’s portrait

ギ・ド・モーパッサン(Guy de Maupassant)は、1850年生まれのフランスの小説家です。名前は知っていましたが、ほとんど読んだことはありません。初心者です。

著作でもっとも名高いのは『女の一生(Une vie)』(1883)でしょうか。これを原作に日本で映画化された作品があって、そのテーマに普遍性があるのだろうな、と思っていました。

19世紀後半に写実主義で名を馳せたフローベールに師事したモーパッサンは、自然主義文学を確立したと言われています。

そんなモーパッサンの執筆活動の期間はわずか10年ほど。その間に、300を越す中短編、6編の長編、3冊の旅行記、250に及ぶ時評文や戯曲なども手がけたとされています。

『墓』のあらすじ

『墓(La Tombe)』は、1984年に発表された短編です。あらすじはざっとこんな感じ。


ある夏の深夜の墓地で、一人の男が女の死体を掘り出しているところを、墓番に見つかり捕えられます。その冒涜行為に対して裁きを受ける裁判の法廷で、男は裁判官に語り始めます。なぜ自分が、墓を掘るに至ったのかを。

自分が墓を発いたのは、愛人で、「もの狂おしいまでに熱愛していた」こと。その出会いから得た幸福感、そして彼女が「命そのものになった」のだと。風邪をこじらせ間もなく亡くなって、茫然としてる間に埋葬されてしまったこと。すると(もう二度と再び彼女には会えないのだ)という考えが湧いてきて、気がへんになったこと……。

棺が埋められた翌日に今一度彼女の肉体を見ようと行動した場面がありありと、リアルな描写で語られ、心情を打ち明けられると、法廷は静まりかえっていくのです。果たして男の結末は……。


『墓』のインパクト

大半が男の独白になっているのですが、驚くほどの説得力でしてね。日本語訳も手伝っているのか、一文一文の重みがすごいのです。

愛する人の姿を、もう一度だけ一目みたい、という心理は、誰をも黙らせてしまう力を持っていたのでした。

フランス自然主義は、リアリズムの一種であって、現実のありのままを客観的な立場で観察、描写する芸術であり、人間の実像に迫ろうとするものだとのこと。

そう考えると、なるほど、『墓』には、その要素がまさに凝縮されているように思います。愛する人の死をこう描写するのか! という新鮮な驚きがありました。

なかでも、墓を発(あば)くというもっともインパクトのある行為。これは土葬の時代だから、成せる技でもあります。

掘り返したのは埋葬された翌日で、かなり行動は早い。でも時期は7月だから腐敗も始まる訳です。読者は、法廷の裁判官や傍聴人とともにこの光景を想像するのですが……真夜中の土葬の墓場で、灯りひとつ持って棺の蓋を開けるのは、ちょっとホラーです。

このインパクトをもってして、その行動に至った男の心理に触れることになる訳です。常軌を逸しているからこそ「人が死ぬとはどういうことなのか?」を問うことになるのですね。

ちなみに、モーパッサンはこの『墓(La Tombe)』以前に『墓場の女(Les tombales)』という短編も執筆しています。こちらは、ある墓の前で、喪服で悲しみに暮れ倒れていた女と出くわした男と、その後の話。モーパッサンにとって墓場が、そもそも人の死というのが、身近なモチーフだったことが伺えます。

モーパッサンのお墓

モーパッサンは精神的に病んでしまい、病気もあって不遇にも1893年、42という若さでこの世を去っています。

フランス・パリのモンパルナス墓地に、荘厳なお墓がありました。

Lorelai19 at de.wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons

一際目立つ、立派なお墓ですね。誰にも掘り起こせそうもありません。

1897年にはパリのモンソー公園に彫像が建立されているそうで、フランス国民にその功績が称えられている作家なのです。

ここにも世界中から多くの墓参者が訪れているに違いありませんね。いつか訪れてみたいものです。

モーパッサン『墓』を読む・聴く

モーパッサンの『墓』は青空文庫やKindle版で手軽に読むことができます。短編でさらりと目を通すことができますよ。

短編集で『モーパッサン怪奇傑作集』にまとめられているというは面白いです。人間的に壊れてしまう狂気のようなものを「怪奇」というならば、他にもそういった題材の短編が集まっているのでしょうか。ほかも読んでみたくなりますね。

また、耳読ができるオーディオブックにもなっています。私は耳でも聴いてみて、より臨場感を味わいました。

お墓を扱う文学は、もれなく死を扱うものなのでしょうが、モーパッサンの『墓』は究極の愛の形をも提示していました。うーん、濃ゆい!

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