2021年6月9日〜11日に行われた「セレモニージャパン・エンディング産業展」で、お墓にまつわる多くの展示を見てきましたが、今回は実体がまだない「バーチャル墓」です。アーティストと創る、新しい“偲び”の形とは、いったいどんなものなのか、レポートします。

お墓とアートの融合は、あらたな選択肢になるでしょうか。
エンディング産業展(ENDEX)についてはレポート①②をご参照ください。


会員制バーチャル墓地「víz PRiZMA」
エンディング産業展のなかで、文字通り異彩を放っていたブースがこちら「víz PRiZMA(ヴィーズ プリズマ)」さんです。

víz PRiZMA(ヴィーズ プリズマ) https://viz-prizma.com/
víz PRiZMAは、藝術的なバーチャル墓地。「アーティストと創る、新しい“偲び”の形」です。2021年1月に創業した、東京藝大DOORプロジェクト発の藝術ベンチャー、each tone社が提供するサービスです。
ENDEX 出展社紹介より
藝術的なバーチャル墓地……「芸術」にむずかしい「藝」の字をあてるところ、なにやらホンモノのアートの香りがします。実はこのプロジェクト、リリース発表時からとても気になっており、【2021年5月後半】お墓のニュース記事ピックアップでも取り上げていました。

「víz PRiZMA」は、「バーチャル墓地」「コミュニティ」「プラットフォーム」の三本柱。藝術性を有しつつ、利便性・経済性にも優れた「バーチャル墓地」。“生きる時間”にもフォーカスし、“限りある時間をより良く生きる”ための「コミュニティ」。ブロックチェーンを用い、遠い未来の子孫に自身の生きた証を伝える「プラットフォーム」。伝統的なお墓や弔いの概念を継承しながら、これまでになかった、新しい“偲び”のかたちが、アーティストらの手により姿を現します。
プレスリリースより
……横文字カタカナ率が高くなっております!お墓の界隈にしては珍しいことです。そして正直、まだ始まっていないサービスを理解するのは難しいです。
でも「バーチャル墓」とうたっているからには、素通りできず。実は5月末に行われた第1回目のオンライン説明会に、参加させていただいたのでした。聞いた方が早いに違いない! と。
そんな訳で、エンディング産業展でもたしかに出展があったのですが、プロジェクトをイメージしたインスタレーションの展示を主に楽しませていただきまして。
ここからは説明会も含めてわたしが直接聞いて分かったことを、まとめますね。
「víz PRiZMA」の三本柱
víz PRiZMAが掲げる三本柱「バーチャル墓地」「コミュニティ」「プラットフォーム」から、アプローチします。
①バーチャル墓地 〜アーティストと創る、新しい“偲び”のかたち
「バーチャル」は、「事実上、実質上の」あるいは「仮想的、疑似的な」という意味で、「墓地」には一般的に「遺体や遺骨、亡骸に代わるものを葬る場所」という概念が含まれています。

víz PRiZMAでは、瞳にある虹彩(こうさい)が遺骨に代わります。ヒトの虹彩データを由来としたデジタル生体アート作品を、バーチャル空間上で墓碑のように象徴とするのです。
瞳に刻まれた虹彩の文様は、生体認証データとしても使用されるように、その人独自のものです。人は瞳を通して世界を見て、瞳を通して想いを伝え、大切な人と見つめ合い、世界とつながってきたとも言える、まさにその人自身という捉え方もできます。
この虹彩データを使うことで、他の誰とも違うオリジナルのデジタルアート作品が生まれ、これが「生きた証」としてバーチャル空間で光り続けるというコンセプトなのだそう。
これなら定義上「バーチャル墓地」と呼んでも問題なさそうですよね。
デジタルアートの制作はアーティストのサポートにより、対面型のワークショップで行われます。
自身の人生や想いを表現するという成果物に、虹彩データを一定のアルゴリズムで掛け合わせ、約1ヶ月程度でオンリーワンのデジタル作品ができあがるということです。その後、ギャラリーと呼ばれるインターネット上のバーチャル空間に作品が展示され、自身の作品へのアクセスキーが付与されます。
ところで、いったいどのようなワークショップ、そしてどんな作品になるのかが要になりそうですよね。
説明会では簡単な試作品を見せていただきました。ドット絵の文様のようなものに、色味はワークショップでの作品から抽出されるとのこと。そして、バーチャル空間上ではゆらぎが加わるということでした。このあたりはデジタルアートに明るくないと、語れません……。
また、各自「タイムカプセル」という機能もバーチャル空間に用意され、未来へのメッセージを残すことができる、といったことも想定されているそうです。
確かなのは、虹彩というのは生きている間しか機能しないものですから、このバーチャル墓地は作りたい人が元気なうちに準備しておく「生前墓」ということになりますね。
②コミュニティ〜“限りある時間”を、より良く生きる
víz PRiZMAが強く提唱しているのが、生きている時間に光を当て、寄り添うサービスであることでした。
入会すると会員制コミュニティに属することとなります。そこで提供される藝術に関するさまざまな場(セミナーや展覧会、ワークショップ、サークル活動や物販などを予定)を通じて、仲間との交流、より良く生きるきっかけや気づきを得られるということです。
自分の死後に遺すアート作品作りの過程で、これまでの人生を見つめながら、人生の終わり(死)を意識することになります。そこで、限りある時間を認識すると、その時間をどう生きたいか、どう輝かせたいかにつながっていく。そこにコミュニティが寄り添ってくれるというイメージなのかな。
コミュニティの具体的な運営方法や内容はまだ準備中のようです。
出自から考えると、アート好きにとっては良質なコンテンツが提供されるのではないかと思います。ただ、当初の会員がどれくらい、どんな人が集まるのかにもよって、フレキシブルに考えていくとのこと。良い意味で可能性がありますが、未知数でもあるところです。
③プラットフォーム 〜“生きた証”を後世へ、つなぐ
3つめの柱「プラットフォーム」に関しては、紹介文から。
víz PRiZMAでは、あなたが“生きた証”を、藝術作品とともにバーチャル空間の記憶領域にとどめ、ブロックチェーンで守り、遠い未来へつなげます。残された方々は、スマホやPCから、時と場所を選ばず、大切な方の記憶に触れることができます。あなたが直接会うことのなかった子孫の方々も、víz PRiZMAを介して、あなたの存在を感じることができます。
ENDEX 出展社紹介より
はい。こちらは、他界後の話です。
従来のお墓の継承が難しくなっているという課題に対する、ソリューションのようにも思えます。先ほどの「タイムカプセル」も未来へ確実に引き継げるとしたら、付加価値となりそうです。
ただ、伺ったところでは、他界後30年をひとつの契約期間とするとのこと。遠い未来へつなげるには、親子リンク、パートナーリンクといったお互いに認証しあった関係性とつなぐ必要性があるようです。
このあたりは、まだまだ先の遠い未来のことで、聞いている側もさっぱりで質問できる土台がない状態でした。完全に想像力不足です……。
仕組みと流れ
víz PRiZMAのサービスは大きく「生前/他界後」に分けられます。以下がこれまでに把握できた内容です。
- 説明会・・・オンライン開催、参加無料。
- 入会・・・入会金は税別50万円(生前〜他界後30年の会費含む)
- 藝術ワークショップ・・・1日対面で開催。虹彩データ採取、アート作品制作など。
- 会員コミュニティ・・・展覧会・ワークショップ・演奏会・セミナーなど各種イベント(実費あり)
- 他界・・・代理人からvíz PRiZMAへ連絡
- 虹彩アートの展示・・・アクセスキーを引き継いた人が閲覧できる
- “いのち”をつなげる・・・一定のルールで子孫などとリンクをつなげることができる
- 正確な情報はvíz PRiZMAさんにてご確認ください。
アートの敷居は高くない?
víz PRiZMAのバーチャル墓地は、虹彩データ由来のアート作品をバーチャル空間へ格納して、弔い、偲び、後世へ遺すもの。
故人の遺骨を埋葬するリアルなお墓に対して、ポジティブで革新的な進化とも思えるものでした。
「藝術の力を社会へ」と掲げ、アート思考を弔い文化に取り入れる、これまでにないプロジェクトであることは間違いなさそうです。ただし、目の前のリアルなお墓の課題は、まだ残っているでしょう。
ならば既存のお墓とは一旦切り離して、すこし先の未来のお墓の形をともに創造するくらいの感覚で、アートを楽しんでみるのがこのプロジェクトの醍醐味かもしれません。
じつは、エンディング産業展の会場でわたしがブースを訪れたら、なんとスタッフの方が説明会参加者だと気がついてくださり、驚きました。それだけ参加者をよく見て、質問にも丁寧に答えてくださっていたのですね。
素人にとって、藝術を打ち出したプロジェクトはなんとなく敷居が高いようでしたが、人に関してはまったくそんなことありませんでした。アートに関しては、見るのは好きだけど、創るのは未知なので……もっとお近づきになりたい気持ちです。
これからも注目してまいります。気になったら、直接聞いてみる!がおすすめです。
サービスの説明会がオンラインで開催されています。
直近の開催は、
7月7日(水)20:00~
7月17日(土)10:00~
7月27日(火)20:00~
詳細・予約はこちら。